概要

顧客エンゲージメント最新動向

Woman looking at her phone while holding a pen

進化する顧客体験の「ねじれ」なぜ、いまだにAIでは「理想の体験」に届かないのか?

アレックスは走ることが日課です。数か月に一度、新しいシューズやソックス、ランニングウェアを買いそろえています。そんな彼には、いつも選択肢にあがるブランドがあります。お気に入りのシューズを紹介してくれるし、そろそろ買い替えどきだとリマインドもしてくれる。今いる場所にぴったりのランニングコースまで教えてくれることもあります。一つひとつの対応が、自分のことをよく知ってくれているように感じられる。実際、それは彼のために設計された体験なのです。

これこそが、AIによるパーソナライズの約束です— 顧客のニーズを先回りし、一貫性のある体験を提供し、「わかってくれている」と感じさせること。しかし、こうした体験は、今もなお例外であり、標準とは言いがたいのが現実です。

AIが劇的に進化しているにもかかわらず、世界中の多くの消費者は「昨年よりも企業に理解されている」と感じていません。 業側では、82%のリーダーが「自社は顧客を深く理解している」と回答している一方で、それに同意する消費者はわずか45%にとどまります。しかもこのギャップは昨年(81% vs. 46%)よりわずかに広がっています。

AIが、企業と顧客の距離を縮めるためのものだとすれば—なぜこのギャップはいまだに埋まらないのでしょうか?

Runner, road or man for fitness in training, sport or exercise goals for marathon competition. Indian athlete, wellness or running challenge in cape town race in progress, city street or health body.

消費者の60%が顧客エンゲージメントに対して「良い」または「非常に良い」と評価(2024年の62%から低下)。

変わり続ける「あたりまえ」

消費者の好みは進化しており、企業は常にその対応に苦慮しています。実際、53%の企業が「変化の早い顧客ニーズへの対応」を最大の課題と答えています(昨年は44%)

では、企業が顧客を理解するうえで、他に何が壁となっているのでしょうか?その答えは、規制やデータプライバシーに対する懸念(45%)、 そして複数チャネル・プラットフォーム間の継続的なデータ連携の難しさ(44%)です。求められているのは、「もっと集めること」ではなく、必要な分だけのデータで、信頼とパーソナライズを両立すること。そのバランスを取ることが、これからの顧客体験の前提になります。

同時に、顧客のロイヤルティは薄れつつあります。「特定のブランドに“非常に”または“極めて”忠誠心がある」と答えた人は、世界全体で44%。昨年の48%から減少しています。

競争に勝ち残るには、迅速な対応と賢明な判断、そしてデータ連携・コンプライアンス・技術革新のバランスが不可欠です。なお、3人に1人(37%)の消費者が「2025年には今よりも多くの購買を予定している」と答えています。 つまり、まだ選ばれる余地はあります。変わり続ける「あたりまえ」に応えるには、スピードと知性、そして信頼のバランスが必要です。 それができるブランドこそが、不確実な市場で、次の選択肢となるのです。

ブランドに非常に忠実だと感じている顧客は、世界でわずか11%です。

2025年、顧客の変化に寄り添い続けられるか?

昨年のレポートでは、「個別化の時代」が主なテーマでした。 AIが導く個別最適化に期待が集まり、「どれだけ顧客を理解できているか」が問われていました。 

2025年に求められるのは理解の先にある「行動」です。わかっているだけでは足りません。その理解を、信頼や共感につながる体験に変える力こそが、今、ブランドに求められています。パーソナライズは依然として重要ですが、もはやそれだけでは顧客の心は動きません。 

変化にのまれるな。設計で変化を創れ。 

顧客の変化に寄り添いながら、行動し続けること。それが、新しい基準です。AIはその支えになるべき存在です。関係を弱めるのではなく、深めるためのツールとして使うべきです。

2025年では、顧客を「知る」だけでは不十分です。重要なのは、顧客の小さな変化に気づき、それに応じられる設計があるかどうか。たとえばアレックスの靴のサイズを知っていることよりも、「その靴を返品した理由」がデータとして生かされているかどうか。「土踏まずが合わなかった」とチャットボットで伝えた情報が、次の体験にどうつながるか。そうした文脈こそが、信頼ある顧客体験を左右します。

Woman sitting outside, smiling and using her smartphone, wearing a white jacket and blue jeans.

調査手法

Twilioは、2025年1月3日から2月17日まで、7,640人の消費者と世界中の637人のビジネスリーダーを対象に調査を実施しました。 

スマートフォンを所有して、過去6か月以内にオンラインで買い物をした、世界中の7,640人の消費者を対象に調査を実施しました。それぞれの国で、性別、年齢の(米国と英国では人種的多様性についても)バランスをとり、年齢グループは以下のように定義しました。Z世代(18~28歳)、ミレニアル世代(29~44歳)、X世代(45~60歳)、シニア世代(61~79歳) - に分けられます。

調査対象の637人のビジネスリーダーは、取締役以上の経営幹部であり、従業員500人以上の企業に常勤し、自社の顧客体験、マーケティングテクノロジー、顧客データ戦略に精通しています。サンプルには、最低要件として経営幹部であることが求められ、企業の規模は従業員数5,000人を基準に上下に分布しています。

回答者は次の18か国から参加しました。オーストラリア、ブラジル、チリ、コロンビア、フランス、ドイツ、香港、インド、インドネシア、イタリア、日本、メキシコ、フィリピン、シンガポール、スペイン、タイ、英国、米国。